救急医療崩壊 [医療事故]
毎日新聞 損賠訴訟:「手術遅れ後遺症」 沼津夜間救急医療対策協に女性が提訴 /静岡
沼津市大岡の沼津夜間救急医療センターで、適切な診断を受けられず手術が遅れて後遺症が残ったとして、沼津市内の女性(70)が5日までに、同センターを管理する社団法人沼津夜間救急医療対策協会に対し、約3700万円の損害賠償を求める訴訟を地裁沼津支部に起こした。
訴状では、女性は04年12月28日夜、腹痛で同センターを受診。担当医は点滴を打つなどして「大腸が少し疲れているだけ」と女性を帰宅させた。しかし翌29日も腹痛は治まらず、同日別の病院で大腸に穴が発見され緊急手術を受けた。その後今年3月まで入退院を繰り返し両足にしびれやまひが残った。
原告側は「手術が必要な状態だったのに、血液検査など適切な診断をしなかった」と主張。同センターは「法廷で争う」と話している。【山田毅】
2007年11月のニュース記事です。
腸管に穴が開くと、本来無菌状態である腹腔に腸管内の細菌がばらまかれ、腹膜炎を起こします。極力早い処置が望まれます。
しかし、胃や十二指腸に穴が開いた時と違って、腹膜刺激症状=強い腹痛等の症状が弱く、さらに高齢者では症状が弱いとされています。
従ってニュース記事の患者さんの大腸に穴が開いているという診断に到るのは、限られた医療資源しかない夜間や休日の救急診療所においては困難と言わざるを得ません。
どんな疾患でも、医療機関にかかれば治癒して当然、最善の結果にならなければそれは全て医療者の責任であり、賠償を求める、という今の風潮が生み出した不幸な提訴ではないでしょうか。
ついでに、大腸穿孔の診断が遅れたことと、手術の結果下肢の麻痺等の症状が残ったこととの因果関係は強いとは思えません。
それはさておいても、この訴訟は産科医療崩壊の構造と全く同じです。以前の記事で、奈良県でこの期に及んでも産科医を訴えた事件を取り上げました。首尾良く賠償金を取れたら原告はめでたし、めでたし、でしょう。でもその後産科医がさらに現場を立ち去り、さらに産科医療は崩壊への一途を辿るのです。
沼津市の夜間救急診療は、沼津市医師会が自主的に会員の協力をつのって維持しているものと思われます。こうして少しでも結果が最善でなかった場合に、カネが取れるぞ、とばかりに沼津夜間救急医療対策協会を訴える。協力する医師は減り、夜間の救急医療は衰退して行きます。最悪の場合沼津の夜間は無医村ならぬ無医市になってしまう日が来てしまうかも知れません。
医療者を訴えることの不毛さの他に、その結果爾後の救急患者の受診チャンスを減らすことに考えが到らないようですね。やはり自分さえ賠償金がもらえれば、あとは野となれ山となれ、ということでしょうか。







全く同感です。
しかも付け加えて言うなら、大腸穿孔がもし潰瘍などが原因であるとするなら前日夜間センター受診時にはまだ穿孔していなかった可能性も十分にありその場合診察では腹膜刺激症状もない可能性もあります。
救急を専門とする私たちの名言集には『後医は名医』といった皮肉にも取れる格言がありますが症状が出てからなら研修医でも分かります。
医者を訴えて金を取ろうなんてひどい話です。訴えるなら金ではなく良心にと考えています。
by ER99 (2008-01-31 14:24)
救急の現場の先生からの貴重なコメントありがとうございます。
『後医は名医』私は知りませんでしたが、大変核心を突いた格言ですよね。
医療行為を振り返って、後からなら何とでもその診断・治療行為が悪かった、誤っていた、と言えます。でもその時その時で、一番考えられる診断に基づいて、一番良かれと思われる治療行為を選んで行く訳です。
これがベストコースでなかったことを咎めて訴えようとしているのが今の風潮です。救急医療に限りませんが、医療の実際を知らない人たちの論理ですね。
ER99先生のもとに、そういう困った人たちが担ぎ込まれないことを祈るばかりです。
by 筍ENT (2008-01-31 22:14)
医療崩壊ー地域医療の崩壊は、今国民的な関心になっていると思いますが、わたしの知人の開業医の先生が最近、このテーマで執筆されています。
この本によると、その崩壊の主な責任は、医療行政の問題にあると指摘しています。つまり、医療費など年間2200億円削減のしわ寄せを、地域の医療現場に押しつけているとのことです。
このような、一開業の方々を含めて、現場の医療関係者から様々な議論が巻き起こってくることを期待したいところです。
『医は仁術か算術か―田舎医者モノ申す』(定塚甫著・社会批評社・1500円)
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/shakai/top/80-9.htm
by 堀口舞 (2008-10-22 17:31)
以前にもご紹介頂きましたね。なかなか書店に行って買う時間がなくてまだ読んでおりません。
医療崩壊には色々なファクターがありますが、無理やりな訴訟と、医療費削減という国の政策・経済的問題との両面がありますね。
慶應大経済学部の権丈先生のように、税金や保険料を上げても医療を充実させようという主張の方もおられます。
世界に誇る日本の医療体制を壊してはいけないと思います。
by 筍ENT (2008-10-22 20:11)