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医療事故と結果責任主義、不毛な刑事訴追 [医療事故]

asahi.com 16歳の入院患者死亡、警察が捜査 広島・安佐市民病院

広島市立安佐市民病院謝罪.jpg  広島市立安佐市民病院(広島市安佐北区)は17日、入院していた高校1年男子(16)に対し、看護師が筋肉に注射する予定だった抗てんかん剤「フェノバルビタール」を静脈に投与するミスがあり、患者が約5時間後に死亡したと発表した。同病院はミスを遺族に謝罪したが、死亡との因果関係は不明としている。広島県警は遺体を司法解剖して死因を調べる。

 同病院によると、死亡したのは山口県平生町の男子生徒で、原因不明の高熱と全身けいれんを起こし、2月18日に国立病院機構岩国医療センター(山口県岩国市)に入院。同26日から神経内科のある安佐市民病院に転院し、意識不明のまま集中治療室(ICU)などで治療を受けていた。

 同病院は今月12日から中枢神経の働きを抑制する効果のあるフェノバルビタール500ミリグラムを1日2回、筋肉注射で投与。14日には医師らと短い会話ができるまでに回復したという。

 16日は午前10時から担当看護師が300ミリグラムを注射する予定だったが、ほかの仕事に追われたため、別の看護師(23)が代わりに予定より約20分遅れで投与することになった。この際、筋肉注射するよう注意書きされた処方箋(せん)を確認せず、点滴用の管を通して静脈に投与したという。患者は約2時間後から心拍数が低下して呼吸が弱まり、午後3時24分に死亡が確認された。

 フェノバルビタールには呼吸を抑える効果もあり、厚生労働省医薬食品局安全対策課は「静脈への投与の場合、筋肉注射に比べて少量の投与でも急激に血中濃度が上がるため、死に至る可能性もある」と指摘している。

 日高徹院長は記者会見で、「ご冥福をお祈りするとともに、おわび申し上げたい。原因を分析し、対策を徹底したい」と話した。


広島市立安佐市民病院.jpgよくある、と言っては語弊がありますが、単純な投与方法誤認識による医療事故の一例です。

まず交通事故で繰り返し書いて来た結果責任主義の矛盾をここでも検討してみたいと思います。

例えば抗生剤の注射などでは、本来筋注すべきものを静注してしまった場合でも、現実にはまず健康被害を発生することはないと思われます。こういう薬剤の投与経路ミスなどと比較してみればわかりやすいと思います。

ニュース記事ではフェノバルビタールを静注してしまったために呼吸抑制を起こしてしまった可能性があります。抗生剤では上記のように健康被害を起こす可能性は低いと思われます。同じエラーを為してしまった時に、結果として健康被害がなければお咎めなし、片や健康被害が発生したら業過致死傷罪となるのは正義に反すると思われます。

さらに人間の身体を扱う医学の不確実性が問題になります。フェノバルビタールの添付文書によると:

(過量投与)
1.過量投与時の症状:中枢神経系抑制及び心血管系抑制。血中濃度40~45μg/mL以上で眠気、眼振、運動失調が起こり、過量投与時、重症の中毒では昏睡状態となり、呼吸は早期抑制され、脈拍弱く、皮膚には冷汗があり、体温下降し、肺合併症や腎障害の危険性もある。
2.過量投与時の処置:呼吸管理、炭酸水素ナトリウム投与による尿アルカリ化、利尿剤投与により薬物の排泄を促進させる(重症の場合は、血液透析や血液灌流を考慮する)。

とあります。呼吸抑制については言及されていますが、死亡に到るとまでは記載されていません。もちろん死亡しないとも書いてありませんが、これは同じ量を静注された時に、その患者さんによって身体の反応が異なることを示唆しているとも言えます。

今回は最悪の転帰を辿ってしまいましたが、果たしてこの全ての結果を医療者に負わせるべきなのでしょうか。また、ここに刑事訴追を前提とした警察の捜査が入ることが適切でしょうか。

大切なことは、この病院において、或いは同様の注射剤指示箋を用いている病院にあって、どうやって投与経路(筋注・静注など)のエラーを未然に防げるかを検討すること、そしてこの患者さんの遺族の方に謝罪、民事補償をすることでしょう。
また、病院の人員不足がなかったか、そうした問題も検討されなければなりません。

誰かを吊し上げ、刑事訴追することは何ら今後の再発防止に資するところはありません。
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コメント 5

NO NAME

イギリス保健省の報告書”An organisation with a memory”
http://www.patientsafetyalliance.scot.nhs.uk/files/DoH%20report%20%20An%20organisation%20with%20a%20memory.pdf?fileid=301

の中にも、医療エラーがあったとき、関わった医療職の個人名を挙げて、スケープゴートにして、罰を負わせることは、エラーを減らす医療安全にはつながらない、とあります。
まず、何が起こったのか、なぜ起こったのか、どのようにしてそれが再発しないようにするべきなのか、をまず考えるべきである。
そのためには、個人名を挙げず、スケープゴートにもせず、罪(刑罰を負わせず)に、おこった状況を関わった人に語らせることが医療安全につながる、とありました。

これが欧米のやり方です。
日本では、個人名を挙げて、スケープゴートにして、罪を負わせて、それで終わりです。
これでは、エラーが再発しないようなシステムには結びつきません。

もちろん、エラー自体が、医療職のpoor performanceに原因があるなら再教育の対象になります。再教育後に、復職します。
仮に最新の注意を払っても避けられないものだったとしたら、エラーでも過誤ではありませんから、どうしようもありません。
それは、再教育の対象にはなりません。

いつになったら、日本が欧米並みにまともな医療安全システムができるんでしょうか?
by NO NAME (2008-06-16 16:00) 

鶴亀松五郎

↑上のイギリスの記事、私です。
by 鶴亀松五郎 (2008-06-16 16:04) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

もちろん何でも外国のマネをすることが良いとは言えません。例えばアメリカの医療制度をマネして。自社の利益を上げようとしたオリックスの会長などもいました。日本の誇るべき保険医療制度をこれ以上壊すべきではないし、これはむしろ他国に広く勧めるべき制度です。

一方で鶴亀先生にご紹介頂きましたが、いざ事故が起きた時の個人責任追及は、他国に比べると、心から恥じるべきシステムです。エラー再発防止に何の役にも立たないばかりか、それを阻害する恐れさえあります。

以前の記事で、日本の仇討ち文化が陰を落としているのかなどと愚考したこともありましたが、何はともかく、この事故後の正しい処理は大いに先進国から学ぶべきと思います。日本はこの点について言えば、間違いなく後進国です。

コメントありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。
by 筍ENT (2008-06-16 22:19) 

広

ここの神経内科の医者貧乏ゆすりしながら話しする。看護婦は問題なし
by (2013-03-04 17:40) 

筍ENT

貧乏ゆすりはあまり関係ないでしょう。問題は検査や治療方針の説明、その内容では。
by 筍ENT (2013-03-04 20:47) 

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