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大野病院事件無罪判決と新聞報道 [医療事故]

読売新聞 「なぜ事故が」…帝王切開死、専門的議論に遺族置き去り

鈴木信行.JPG(前略)
 一方、亡くなった女性の父親、渡辺好男さん(58)は、最前列で傍聴した。主文読み上げの瞬間、驚いたような表情で鈴木信行裁判長を見上げた後、厳しい視線を加藤医師に投げかけた。

 加藤医師は、約2時間20分にわたった言い渡しの後、傍聴席の遺族の方を向き、深々と頭を下げた。

 渡辺さんは判決前、「なぜ事故が起きたのか、なぜ防げなかったのか。公判でも結局、何が真実かはわからないままだ」と話した。

 あの日、妻(55)から「生まれたよ」と連絡を受けて病院に向かった。ハンドルを握りながら、娘に「もうすぐクリスマスとお正月。二重三重の幸せだな」と声をかけようと考えていた。

 病院に着くと悲報を聞かされた。1か月前、左足を縫うけがをした渡辺さんを、「体は大事にしなよ」と気遣ってくれた娘だった。

 帝王切開で生まれた女の子と対面した娘は、「ちっちゃい手だね」とつぶやいたという。これが最期の言葉になった。娘の長男が「お母さん起きて。サンタさんが来ないよ」と泣き叫んだ姿が脳裏から離れない。

 「警察に動いてほしかった」と思っていた時、加藤医師が逮捕された。

 「何が起きたのかを知りたい」という思いで、2007年1月から08年5月まで14回の公判を欠かさず傍聴した。証人として法廷にも立ち、「とにかく真実を知りたい」と訴えた。「大野病院でなければ、亡くさずにすんだ命」と思える。公判は医療を巡る専門的な議論が中心で、遺族が置き去りにされたような思いがある。)

産経新聞 妊婦失血死事件無罪判決 医師「もう一度医療に」 父涙ぐみ「許せない」

加藤克彦.jpg(前略)
 一方、亡くなった女性の遺族もまた、「無罪」を言い渡した裁判官を見据えながら判決に聞き入った。「県立大野病院でなかったら、亡くさずに済んだ命。許せない」。これまでの公判で涙ぐみながら訴えた父親は、この日、祈るように両手を組み合わせたまま、判決理由に耳を傾けた。

 判決の朗読が始まって5分ほどたった後、うつむいた父親が突然涙をこぼし始めた。感情を抑えられない様子で、手にしたハンカチでいくども涙をぬぐった。
(後略)

毎日新聞 福島・大野病院医療事故:帝王切開判決 無罪に医師、安堵 女性の父、目閉じ

加藤克彦弁護団.jpg(前略)
 一方、死亡した女性は出産後、対面した長女の手をつかんで「ちっちゃい手だね」と声をかけたという。その後胎盤剥離(はくり)を経て容体が急変し、出産の約4時間半後に死亡した。

 渡辺さんは判決を控えた今月12日、毎日新聞の取材に応じ、公判で繰り返し謝罪した加藤医師に対し「わびるなら、娘が生きている間になぜ医療の手を差し伸べてくれなかったのか。絶対許さないという気持ち」と怒りをあらわにした。

 娘の死の真実を知ろうと、医学用語をはじめ、帝王切開手術の知識を医学書やインターネットで調べ、ファイルにまとめた。医療事故を機に生活は一変し、「笑顔がなくなった」と語る。孫に「母親」を意識させたくないと、家族連れが集まる場所には連れ出さないという。
(後略)


加藤克彦支援者.jpgこの判決はあまりに当然のことで、それに対するコメントは省きます。

私がここで問題にしたいのは、事ここに及んでまだこんな記事を書く新聞です。
医療者バッシング、医療崩壊のお先棒担ぎだった毎日新聞はトーンがやや控えめ、代わって、特に産経新聞と読売新聞の記事に大いに疑問を持ちます。

亡くなった女性の父親の発言を無批判・垂れ流しで記事にしています。裁判で当然の無罪判決を得た加藤医師とのバランスを取ろうとでも思っているのでしょうか。こういうのはバランスとは言いません。

「なぜ事故が起きたのか、なぜ防げなかったのか。公判でも結局、何が真実かはわからないままだ」
いくら医療関係者でなくても、公判でこれだけ手術過程が検証されて来れば、加藤医師の努力、判断、そして失血に到った過程はわかったでしょう。加藤医師がその場その場でベストを尽くしたこと、そしてそれにも関わらず失血で死に至ってしまった過程は理解できなかったのでしょうか。

「県立大野病院でなかったら、亡くさずに済んだ命。許せない」。
そう考えたいのでしょうか。どこの病院のどのベテラン産婦人科医が手を尽くしても同じ結果になった可能性が高いと思われます。

「わびるなら、娘が生きている間になぜ医療の手を差し伸べてくれなかったのか。絶対許さないという気持ち」と怒りをあらわにした。
手術の間、ずっと女性の止血と良い結果のみを望んで必死に努力した主治医に対するこの発言を垂れ流さないでもらいたいと思います。

以前に取り上げた杏林大耳鼻咽喉科の割り箸事故はじめ、その他の医療事故と構造は同じです。
病気・外傷・災難が襲いかかり、当事者が患者となります。医療者はそれに対して自分のスキルを総動員して救命、治療を行います。しかし結果が思わしくないものとなった時に、突然遺族は恨みの矛先を医療者に向けます。
患者の命を奪ったのは、病気・外傷・病原体などであり、患者自身とともにそれと必死に戦った医療者が突然加害者にされます。

加藤医師の有罪を心から熱望し、無罪判決が出た同医師に「許せない」などと言う発言を続ける遺族の方に対して、私は共感することはできません。
悲しみや喪失の怒りをどうして主治医にばかりぶつけるのでしょうか。
他にその矛先を向ける相手がいないからと言って、患者と一緒に戦って来た医師を糾弾することが正義と言えるでしょうか。

冷静になって頂きたいと思います。患者さんの死亡から十分冷静に考えて頂く時間はあったと思います。

女性の生命を奪ったのは癒着胎盤であり、医師ではありません。

遺族の歪んだ応報感情をことさらに紙面に載せ、読者をミスリードしようとする新聞各紙に強く再考を願いたいと考えます。
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コメント 9

uy

全ての文章に同感します。

こういう理解者、見識者がもっと増えることを切望します。
by uy (2008-08-21 06:46) 

鶴亀松五郎

大手新聞社の記事は、医療に無知なその他大勢の一般大衆読者が対象。
書いている記者も、同じように無知。
で、一向に事実が伝わらない。
したがって、期待もしていません。

臨床医が書いたインターネットの医療系記事は、専門家の考えと反映し、読者は専門家の考えを知って、背景を正しく理解しようとする。

この差は、今後も縮まらないでしょう。

インターネットはますます読者層を広げるでしょうから、背景をきちんと理解できる国民も、まともな知性があれば、増えて行くでしょう。
by 鶴亀松五郎 (2008-08-21 07:30) 

鶴亀松五郎

新聞記者は診療関連死の医学的解明よりも、遺族の感情面での動きを興味本位で取り上げただけ。
そこには、医療安全のシステムづくりに言及した言葉は、一語もありません。
身内を亡くして、裁判でも負けて、がっかりしている家族に対して、世の中にはこのように不幸の連鎖の家族がいますから、哀れんでやってください、といっているかの用です。
お涙ちょうだいの、下劣な記事です。
芸能人がお子さんを交通事故で亡くされた時に、一番つらい時期に、「どういうお気持ちですか」と尋ねるのと同じです。
加藤先生を支援する私でも、この記事には吐き気がしました。
加藤先生だって、今までの苦難を振り返れば(控訴されれば、さらに苦難が続きます)、泣きたくなるのは同じでしょう。
大手の新聞記者の思考回路は御粗末すぎます。

テレビで加藤先生と、ご遺族のかたがインタビューを受けていましたが。
どちらも、画像にする必要がないのでは、と感じました。
それぞれの弁護士の先生のコメントだけで十分でしょう。
両者をさらし者にしているようで、不愉快です。

テレビ、大手の新聞記者、ともに御粗末にすぎます。
by 鶴亀松五郎 (2008-08-21 10:51) 

鶴亀松五郎

長くなって申し訳ありません。
産科専門ではない医師や他の医療職なら、判決文で大体の事実は理解できます。
医学用語をご遺族の方が理解できないとしたら、外の誰かが素人でも解るように解説すれば良いのかもしれません。

裁判にすれば真実が解ると思ったが、結局、解らなかった・・ならば、裁判をやめれば済むだけのこと。
医師側の無罪判決が続くかぎり、空しさが残るだけ。
それでも、お続けになるのなら、我々も加藤先生を支援し続けます。

診療関連死を裁判で決着をつけようとしたところで、何も得る物がなかった・・・裁判ではない形で、医療安全のシステムをつくるための医療側のチームに加わった、お子さんを亡くされた英国の女性の言葉です。
by 鶴亀松五郎 (2008-08-21 11:10) 

筍ENT

uyさん、ご訪問ありがとうございます。今後も医療事故や裁判について観察を続けて行きたいと思っています。
また覗いてみて頂ければ幸いです。

鶴亀先生、今回もありがとうございます。お粗末な新聞記事をいちいち取り上げる方がお粗末だったかも知れません。しかしその新聞を一般の人が読むことを考えると、つい黙ってはおられなくなりました。

以前に書き込んで頂いた先進国のシステム、日本でも診療関連死を法廷に持ち込むことの無意味さ、むなしさをそろそろわかって欲しいですね。

コメントありがとうございます。

医療者と一般の人の間の溝を埋める一助になるか。次の記事に、ラジオでコラムニスト勝谷誠彦が吠えた内容の要約を載せてみます。
by 筍ENT (2008-08-21 17:37) 

maju

こんばんは^^
雨がひどく雷もすごかったです

さて、今朝もこの帝王切開のニュースをしていました
お産には死をもありると言うことを
言われているのに。。。
やはり身近にこういうことが起きてしまうと、
私情が前に前にでてきてしまうんでしょうね。、、
赤ちゃんは助かったんですもんね
逆だったら何事もなくすんだんでしょうね。。。
by maju (2008-08-21 21:37) 

筍ENT

ご訪問ありがとうございます。

「医療崩壊」の小松秀樹氏も書いておられますが、分娩に限らず、病院に行くとどんな病気も治ってしまうという幻想が何故か蔓延しているようです。
そしてそれが治らない、悪い結果を招いたらそれは全て医師のせいだと考えてしまう‥。
医療は不確実なもの、そして危険を伴うものであることを広く知って頂く必要があるんですね。

そして何より、患者とともに病気や外傷と戦って来た医師を、手のひらを返したように仇敵扱いしないで欲しいと願うものです。

コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-08-22 00:54) 

鶴亀松五郎

医師の一分先生が、フランスのフランスの医療事故解明補償システムに関しての専門誌からの論文を掲載していらっしゃいます。

フランスの医療事故解明補償システム
http://kurie.at.webry.info/200808/article_43.html

患者の救済が第一で、よほどのことが無い限り刑事責任も問われず、警察の介入もないそうです。

別途、英文の資料も持っているのですが、こちらのほうがわかりやすいのでご紹介します。
by 鶴亀松五郎 (2008-08-23 19:29) 

筍ENT

ご訪問、そして論文のご紹介ありがとうございます。

詳しくはゆっくり読まないといけませんが、フランスではまずは補償システムを先行させる発想ということですね。しかも医療行為は法律で保護されているということ。

そういう事例を見せて頂くたびに、日本の不毛な業過致死傷罪の存在と、患者と医療者が原告・被告席に分かれていがみ合う民事法廷のむなしさを強く感じます。

よく読ませて頂きます。コメントありがとうございます。
by 筍ENT (2008-08-24 10:34) 

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